当社収蔵の美術工芸品をご紹介しています。
古くから受け継がれてきた工芸品をご覧いただきながら美の歴史を実感ください。
「パート・ド・ヴェール」
数千年の時を超えて“IWAKI”に受け継がれた「幻の技法」
ATG MUSEUMでは、岩城硝子工藝部が制作したパート・ド・ヴェール作品を主に、
当社に古くから受け継がれてきた美術工芸品の一部を紹介しています。
パート・ド・ヴェール(フランス語: Pâte de verre, 英語: Paste of Glass Technique)は
ガラス工芸の一種で、「ガラスの練粉」という意味があり、製品の外観又は制作法から名付けられたと言われています。
これは粘土や石膏等の素材で作品の原型となる塑像を作り、それをもとに耐火石膏などで鋳型を作り、この鋳型に様々な色のガラスの粉に糊を加えて練ったものを詰め、型ごと窯の中で焼成し、長時間かけて徐冷した後に鋳型を壊してガラスを取り出し表面を研磨して仕上げる技法です。
その特徴は目的に合わせてガラスの粒子の細かさや色の種類・濃淡などを自由に調合でき、その色は内部に浸透し豊潤な色彩を放ち、普通のガラス製品では表現することができない味を持たせることができる点です。
豊潤な色彩と自由な形状とを駆使することによって芸術的価値の高い作品を制作することができます。また、技術的に非常にデリケートであり、かつ困難な工程を伴うため、この技法で制作された作品はとても貴重でガラス工芸品の最高峰に値すると言われています。
パート・ド・ヴェールの起源はかつて古代メソポタミア文明の栄えた時代にさかのぼります。型にガラスの粉やかけらを詰めて焼成する技法は、吹きガラスが発明されるローマ時代まで主流でしたが、ローマ帝国の滅亡とともに絶え、「幻の技法」と呼ばれています。
その後、2,000年近い時を経て19世紀末フランスの彫刻家であり画家であったアンリー・クロ(Henri Cros)(1840-1907)がルーブル博物館に現存するローマ時代の作品の製法に惹かれ、その後研究を重ね、数年後に作品を作り上げることに成功しました。これが近代のパート・ド・ヴェールの始まりであったと言われています。
アール・ヌーヴォーの流行とともにパート・ド・ヴェールが注目され、アンリー・クロの作品に刺激された多くの工芸家たちが独自に開発を試みました。彼らの後を追って、フランソワ・デコルシュモン、ヴィクトール・アマルリック・ワルター、ガブリエル・アージー・ルソーなどの巨匠が出現し、フランスのパート・ド・ヴェールの黄金時代を築きました。その結果、「幻の技法」と呼ばれたパート・ド・ヴェールが数多く作られるようになりました。
日本においてはアール・ヌーヴォー期にフランス留学していた洋画家 岡田三郎助(1869-1939)と陶磁彫刻(陶芸)家 沼田一雅(1873-1954)が、帰国後この技法を再現したいと考え、岩城硝子工藝部にその思いを託しました。同工藝部では、数年間に渡り苦心研究を重ね、独自の技法をもって日本で初めてその制作に成功しました。この功績は、ガラス工芸界において新しい扉を開いたと言われています。
今ではほぼ失われた技法ですが、当時作られた工芸品は今でも私たちを静かな輝きをもって迎えてくれています。
当時の職人の想いの詰まった作品をここに展示していますので、豊潤な色彩、艶やかな光沢をご覧頂きながら美の歴史を実感ください。
出典: 「日本のガラス2000年―弥生から現代まで」「日本ガラス工業史」
当社建屋内に実際に工芸品をご覧頂くことが可能な展示室「ATG MUSEUM」がございます。
当社にお越しの際にはぜひご覧ください。
一般開放はしておりませんのでご了承ください。